(写真右)株式会社ゆう建築設計事務所 代表取締役 砂山 憲一 氏(写真左)ソニー・ライフケア株式会社、ライフケアデザイン株式会社 代表取締役社長 出井 学
2016年開設予定の「ソナーレ祖師ヶ谷大蔵」特別インタビュー第2弾。
今回は、同ホームの建築設計を担当した(株)ゆう建築設計事務所 代表取締役の砂山憲一さんを迎えて当社代表の出井と、出会いからソナーレ祖師ヶ谷大蔵にかける思いを語り合ってもらいました。
※上記インタビューは2015年11月18日に行われたものです。内容は取材当時のものです。
出井社長はソナーレ祖師ヶ谷大蔵をどのような空間にしたいと考えたのでしょうか?
出井
ひと言で表現するなら「プライバシーと安心感の両立」。これを施設とサービス、ハードとソフト双方で実現したいと考えました。
その考えに至るまでの経緯を教えてください。
出井
「老人ホームの究極の姿」を考えていくと、「終の棲家(ついのすみか)」の本当の意味を探る必要を感じました。その過程で、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と特養のことを考えてみたのです。サ高住は当時、世に出始めた時期であって、私も幾つか見学に行きましたが、プライバシーが確保された居住空間であっても、シニア向け集合住宅にナースコールが付いているぐらいで、身体が不自由になった後のことが十分に想定されていてない。これは終の棲家、特に「終」とは違うなと感じました。
一方で特養は、私も資格をとる際に現場の実習など経験したのですが、今度は「終」は感じられても「棲家」とは感じられませんでした。確かに最後の看取りまでは対応してもらえますが、居室で寝ているか、昼間は見守りのために一つのスペースに集められているのが日常で、これは「棲家」、つまり「家」と呼ぶにはふさわしくないと思いました。
総じて、これからの有料老人ホームは、集合住宅であっても必要なプライバシーは守られ、同時にケア面での充実と見守られているという安心感が必要。それが「プライバシーの確保と安心感の両立」という先の話につながっていきます。
ゆう建築設計さんは、医療や福祉、介護分野に特化していますね。
砂山
はい。建築設計業務というのは、自分がつくりたいものをつくるのではなく、「社会から求められるものをつくる」ことだと考えます。その意味で当社が専門としている医療や福祉分野の建築はまさしく「社会から求められている」領域です。またこの専門領域には「工夫すること」が随分とあります。その工夫を評価してもらえるからこそ、やりがいがある分野なのです。
透析室や精神科病院のご実績も多いのですね。
砂山
透析医療施設の設計は当社の得意分野です。日本の中で「透析医療施設」の専門建築家がいる建築設計事務所は当社しかないと思います。それは長年の透析施設設計における試行錯誤の現れでもあります。
例えば、当初は、透析室に普通に柱をつけたことがありました。その柱が出来上がった後に「砂山さん、(あの柱で)監視装置が見えないから困るよ」と言われたんですよね。そんなことが書いてある教科書はありません。誰かが教えてくれるのではなく、現場の声でそのことを知り、次からは柱をなくして、監視装置を見えるようにしました。
その他にも、透析の治療環境をもっと良くしようと考え、患者さんの不満の聞き取り調査を行いましたら、様々な項目が出てきました。その一番が「空調」についてです。透析患者さんは、長時間同じ姿勢で透析治療を受けます。そのため夏場の冷房で、一般の人にとっては普通の風速でも、患者さんにとっては痛いと感じるわけです。じゃあ、そうならない空調をつくろうと、天井に設置する空調の吹出口を真横に向け、吹き出し風速を0.5m/秒※以下に抑え、風が天井に沿って広がり、自然に落ちるようにしました。その結果、ベッドでの風速が0.1m/秒※となり、患者さんにとって、ほぼ風を感じない空調のシステムを作るなど、工夫を至るところにしました。
(※一般的な扇風機の風速は1.9m~3.4m/秒以上)
出井
今の砂山社長の話から、ゆう建築設計さんとのやりとりで「この製品はこういう使い方ができる」などの提案が多いのも納得ができました。こちらの要望に対して返答いただくだけでなく、それらを見越して先に提案いただけるのもこういった試行錯誤、工夫の経験があったからなんですね。よく研究されているのがわかります。
我々は原点発想、ゼロベースで考えるということが基本となっていますから、「何のために必要なのか?」ということを常に思考しています。例えば「老人ホームに手すりって、そもそも必要なのか?」という問いに対して、ゆう建築設計さんは「非常に大事な視点です。」と、ご入居者の生活の変化を踏まえ、一緒にゼロベースで考えていってもらえたため、信頼が増していきましたね。