老人ホームに学ぶ プロに聞く。
後悔しないための、
在宅介護か、老人ホームか。

自宅と老人ホーム、両親に介護が必要になったときにどちらを選ぶかは、いずれ直面する問題です。

しかしながら、「うちはまだ大丈夫だ」と考えるのを先延ばしにしている方も多いのではないでしょうか?
介護は予期せぬタイミングで突然始まることもあり得ます。
実際に、「若年性認知症」「脳卒中」「脳梗塞」などで急遽介護をすることになった30代~40代の方が、行政窓口や、老人ホームに相談にくるケースは増加しています。

いざ介護をするとなった時に、最低限の知識を持っているかどうかは、両親にとってもご自身にとっても重要です。知識があれば慌てずに対応できるようになりますし、とれる選択肢も増えます。

そこでこの連載では、3回に渡り「親の介護」について知っておくべきことを紹介します。今回は2回目。テーマは、「親の介護、在宅介護と老人ホームどちらを選ぶか」です。

教えてくれるのは、有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅などの紹介業務を展開する「介護施設研究所」の齋藤 弘毅さん。齋藤さんは、老人ホーム紹介事業の草分け的存在で、多くの相談を受けてきているプロ。

まずは、前回のダイジェストを紹介して本題に入ります。

プロフィール

齋藤弘毅
(株式会社介護施設研究所 代表取締役)

首都圏を中心に有料老人ホームの紹介事業を展開。
相談業務歴は15年以上、過去70,000件以上の相談に携わる。
また、行政機関やケアマネジャー、ソーシャルワーカー大学の福祉課や士業団体等から依頼を受け、過去750回以上の講演を行う。

今から知っておくべき「親の介護」のポイント

  1. 介護について知るには「地域包括支援センター」がおすすめ。地域包括支援センターとは、介護・保健・福祉の専門職がチームとなって、高齢者やその家族からの相談の受付や、高齢者の支援・見守りを行う高齢者の総合的な相談・サービスの拠点のこと。
  2. 次に知っておくべきなのは「介護保険」。介護保険は、「家族の負担を軽減し介護を社会全体で支えること」を目的に、2000年に創設された制度です。40歳になると介護保険の加入が義務づけられます。
  3. 最も重要なのが介護を受ける両親とコミュニケーション。帰省時などにしっかり時間をつくって、ご両親と介護について話し合いましょう。
前回の記事はこちら

在宅介護か老人ホームか?

結論から先に紹介をすると、齋藤さんのおすすめは「一度在宅介護をしてみて、在宅介護が難しくなったタイミングで老人ホームに入居する」というもの。なぜなら、ご自身で介護をまったくしない場合、「もうちょっと何かできたのではないか・・・・・・・」という罪悪感や後悔をしてしまう方が多いためです。

だからこそ「介護保険を活用して在宅介護をしてみる」のが良いとのこと。

介護保険を活用すると、自己負担額を抑えてデイサービスや、介護サービスを利用できます。それらを活用しながら、ご自身で、ご家族で、また、兄弟姉妹がいる場合は順番に介護をしてみるのがおすすめです。

また、有料老人ホームでは、1週間くらいの短い期間だけ入居できる「ショートステイ」などの体験を出来る施設もあります。いきなり老人ホームに入居することになると、ご自身もご両親も不安が大きいと思うので、まずはお互いのためにもショートステイを試してみるのも良いとのことです。

在宅介護と老人ホームの境目は?

では、在宅介護と老人ホームの境目はどういったタイミングなのでしょうか。齋藤さんの答えは「人それぞれ違うという前提はありますが、両親が1人の時間を1人で耐えられなくなったら」「常に誰かの目配りが必要になったタイミング」でした。

1人で耐えられなくなるというのは、例えば「1人でトイレに行けなくなった」「認知症により、夜間も含めて突然何をしだすかわからなくなった」など。ご両親との介護について話し合い中で、こういった境目の話をしておくことも大切です。

在宅介護の良い点、マイナスな点

ここからは、在宅介護と老人ホームの良い点、マイナスな点を紹介していきます。まずは、在宅介護から。

■在宅介護の良い点

介護されるご両親が生活の中心となるので、ご両親にとっては嬉しい環境であることが一番の良い点です。多くのシニアが「迷惑はかけたくない」という思いはありながらも、自宅で介護をしてくれることを望まれています。

また、実際に介護をすることになったときは、介護保険を活用することでデイサービスや訪問介護など、介護のお手伝いをしてくれるサービスを活用できます。ただし、利用時間に制限があるので注意も必要です。

■在宅介護のマイナスな点

自宅で介護をする場合は、すべて自己責任となるため、家族側には知識も覚悟も必要になります。そのため、「家族の持てる時間を全て捧げるようになる」もしくは、「捧げる心づもりが無い」と難しいのが現状です。

昼間の介護だけであれば、デイサービスに行ったり、訪問介護に来てもらったりすることでなんとかなります。問題は、夜の介護。例えば、夜間のトイレの付き添いや、おむつの交換、昼夜逆転して夜間に活動的になる認知症への対応などで、夜に何度も起きる、睡眠時間が少なくなる可能性も。

また、介護はいつまで続くかわからないものでもあるので、日に日に疲れが溜まってしまい、結果として介護疲れになって倒れてしまったり、仕事ができなくなってしまったりするケースもあります。

■介護で困ったときは?

在宅介護で困ったことが出てきたり、介護保険をどう活用して良いかわからなかったりした場合は、地域包括支援センターに相談にいきましょう。

老人ホームの良い点、マイナスな点

老人ホームというと「暗そう」「入ったら二度と出られない」といったネガティブなイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。そのイメージは過去のもの。そもそも「出る・出ない」はご本人の意思で決められますし、自宅より住みやすい環境だからと元気なうちから入居をして有料老人ホームから仕事に出かけられているシニアもいるほど。

老人ホームについては次回詳しく説明をしますが、ここでは良い点とマイナスな点を紹介します。

■老人ホームの良い点

24時間体制で常に守られている環境にあり、栄養バランスが考えられた食事が3食とれ、安心感が24時間あることが1番の良い点。食事とお風呂の時間は決められていますが、それ以外の時間は基本的に自由であり、自分の時間を持てます。

また、毎日体操などのイベントがあり、ヘルパーさんや、施設で仲良くなった友人と話すなど楽しみがあるのも良い点です。というのも、自宅だとトイレと台所くらいの往復しかなく、家族は特に昼間は時間がないため、テレビを観るくらいしかすることがないケースが多いため。

■老人ホームのマイナスな点

集団行動の要素があること。食事とお風呂などの決まった拘束時間もあるため、食べたいときに食べるなどには制限があります。また、有料老人ホームでは入居をするのにまとまった費用が必要なこともあるため注意も必要です。

まとめ

今回は、「親の介護、在宅介護と老人ホームどちらを選ぶか」について紹介しました。それぞれ状況が違うので一概には言えませんが、まずは在宅介護をやってみて、しかるべき時がきたら老人ホームというのがおすすめとなります。

介護が必要になった場合、有料老人ホームにはショートステイができるところもあるので、まずは体験してみるのが良いでしょう。一度、Googleマップなどで老人ホームを調べてみてください。付近にたくさんあることに驚かれることと思います。

次回は「プロが教える老人ホームの選び方」をご紹介します。