塩井
私は大きなテーマとして、20-30年先を見据えた陳腐化しない住宅、リセールバリューをキープできる住宅を作りたいと考えていました。実務においては、スケジュールとコストを常に意識し、その許される範囲内で、社内外関係者が、最大限アイデアと能力が発揮できる環境を提供すること、つまり、プロが働きやすい、仕事しやすいことが大事だと考えていました。
塩井
まず、そのこだわりは、ご入居者にとっての価値につながることが大事だということです。そういった意味では、「人生経験豊かなご入居者が今までどういった生活をしてきたのか」想像することが大切です。さまざまな所で食事をされたり、いろんな所に旅行に行かれたり、経験豊かな人が入居されてくるでしょう。そういった方に満足していただくためには、扱うものが本物志向でないと通用しません。華美ではないけれど、なんとなくほっとするような情緒的な価値を感じていただける建築であること。そこに意識を集中させました。
相本
数多くの福祉施設の設計をやっていると、どうしても後々のクレームを考え、いわゆる施設っぽいつくりになってしまいます。それを、塩井さんをはじめとするソニー・ライフケアのスタッフのみなさんからは「我々が求めているものは、施設ではなくて住宅だよ」と言ってもらえたことで、材料選定の段階から、一般的な介護施設とは違う形で提案できました。
塩井
これからの高齢者集合空間は、施設ではなく、「住宅」でないとダメだと思うんです。なぜなら、ご入居者の方々は、わざわざ住み慣れた我が家からここへ入居されるわけですから。華美な緊張してしまう設えではだめだし、介護されていることが強調されるような施設空間でもダメだと思うんです。そう考えていくと、「華美になりすぎず、本物志向で上品である」ことに行き着いた。そういったこだわりで今回は慎重に空間デザインや材料を選定していきました。
田淵
塩井さんからの一番強いご要望は「室内に梁(はり)型を出さないで欲しい」ということでした。10mの高さ制限があり、通常どおりの構造設計をし、必要な天井高さを確保しようとすれば、どうしても天井には梁型が出てしまいます。梁型を出さない形でおさめるにはどうしたら良いか、構造検討から設備配管のルート、さらにはサッシの納まりに至るまで、様々な角度で検討していきました。
塩井
当社にとって、ゆう建築設計さんは本当に良いパートナーですよね。この依頼も、普通の設計事務所さんだったら抵抗されたことでしょう。
塩井
このこだわりはご入居者の方々へストレートに伝わることはないと思います。建具を天井まで伸ばしているのもそうです。ただ、ご入居いただき、時が経ち、なんとなく心地よいなと感じてもらえる要素の一つだと思っています。
塩井
様々な建築物を多く見てきたからですかね。例えば、欧州には古い建物でも非常に心地よい空間があります。それは文化や気候の違いが背景にはあると思いますが、なんと言っても、天井が高い。梁がない。日本は地震大国なので、簡単には採用できないですし、そうしようと思うと費用がかかります。それを、今回は、ゆう建築設計さんの匠の技で実現してもらいました。
田淵
室内に梁型が出てる様子と出ていない様子を思い浮かべたらわかると思いますが、もちろん梁型が無い方が空間の抜ける感じがありますよね。それが心地よさにつながるひとつの要素だと思います。ソニー・ライフケアがご入居者さんのことを考え、この「梁型を出さない」ということにこだわったからこそ、私たちも徹底的に考え、それを実現しました。
相本
出井社長と砂山の話に詳細は書いてありますが、居室の遮音扉は商品企画までしました。ソニー・ライフケアが考えるPP分離(プライベートとパブリック空間の分離)の理念からいっても、この遮音扉はそれを象徴するものになっていると思います。
塩井
その他には通気口ですね。どうしても建物には、通気口が見えてしまいますが、ソナーレ祖師ヶ谷大蔵は目線に入ってきません。もちろん通気口はあるんですが、サッシの上で一体化して見えないような工夫がしてあります。そしてガス暖炉もこだわりの一つですかね。
塩井
はい。ガス暖炉があるから「入居しようと思っていただけるか」「満足につながるのか」それはわかりません。でも無駄なのかといえば、そうではないと思うのです。「炎」があることでそこに人が集まります。人が集まればそこで会話が生まれると思うのです。そのような光景を私たちがみたときに、暖炉がそこにある意義を認識すると思うんですよね。
塩井
強制的に集まって、無理やり会話をつくろうとする空間ではなく、自然と集まり、自然と会話が始まる。そういった空間の方が心地よいはずなんですよね。それがこだわりであって、何も暖炉を入れることが目的なのではないのです。
相本
今回、このホームに入居される皆さんは、仕上げの材料の高い安いではなくて、その空間の心地よさを分かる方々だと思うんですよね。
塩井
生活と調和した心地よさを提供できるようにこれからも考えていきたいです。それは、物事の大きい、小さいに関係なく、全てにおいてご入居者と働くスタッフの良い環境づくりをめざしていきたいということです。
相本
入居者のために細部までこだわる。その姿がソニー・ライフケアなんですよね。改めて今回の話からもそう感じました。
塩井
当時、私は入社してまだ数ヶ月でしたが、社内外のやりとりで常にソニー魂を感じていますね。
相本
議論というか、やりきりたかったことは、居室の中のリフトですね。部分的に導入したことは大きな一歩ですが、全室に取り入れることはできませんでした。ソニー・ライフケアのコンセプトの中に介護職員の離職の問題への取り組みがありました。介護職員の腰痛対策として抱え上げない介護をしたい。その想いから全室導入をめざしたのですが、次回への課題となりました。
相本
まずは、日本人が介護用リフトと言っても、器具を使って持ち上げる介護をすることに非常に抵抗があるという側面があります。また他施設では導入しているにもかかわらず、使われていないということもあります。ただ、先程の介護職員の問題、またご入居者も年月とともに移動することが難しくなった場合、部屋中リフトを使っていつでも移動できることは必要になってくると思います。
田淵
別件ですが、以前私が設計した福祉施設の理事長にお話を聞いた際、入居の待機者は大勢いるのに、介護職員が集まらないという問題で、ご利用者の入居が遅れた施設がありました。このリフト導入への取り組みは、介護職員の方にとって、就職へのひとつのきっかけとなり、肉体に負担がかかりにくい働きやすい環境をつくり上げ、結果として離職率を下げることも可能だと思います。
塩井
我々もその利用状況を追跡確認する必要があります。今後の課題として働く側の「持ち上げない介護」をめざしていきたいです。
相本
ソナーレ祖師ケ谷大蔵は2016年4月の完成を向けて工事が進んでいます。建物は魂が吹き込まれて初めて生きてくるものなので、運営される方々にも引き続き、初志貫徹、理念の実現に向けて邁進いただけるよう願っています。
田淵
ソニー・ライフケアの介護事業に対する考えは、今までにないものです。その考えに添って運営していけば、ご入居者に喜ばれる施設になると思いますし、ソナーレ祖師ケ谷大蔵の成功がソニー・ライフケア独自の介護システムそのものの大きな第一歩となるはずです。私たちはこの介護システムに大きな期待を寄せていますし、2施設目以降、さらに良い施設となるよう、私たちも現場の皆さんと一緒になって考えていきたいと思います。
塩井
これからが本当のスタートですよね。ハードのみならず、完成後もライフマネージャー,ケアマネージャーが中心となって、現場のみなさんに魂を吹き込んでもらいたいです。流れというのは、最後までが大事。そのためには、我々は第一走者で、良い形でバトンを渡して走りきらないといけない。ソナーレ祖師ケ谷大蔵の完成に向けてワクワク感と緊張感の毎日です。ただ、確信しているのは、ソナーレ祖師ケ谷大蔵はご入居者のみなさんにとって、本当に良い「住宅」になると思っています。ご期待に添えるよう頑張っていきます。
株式会社ゆう建築設計事務所 http://www.eusekkei.co.jp
1963年生まれ
1984年 国立徳山工業高等専門学校 土木建築工学科卒業
1986年 福山大学 工学部 建築学科卒業
1986年 株式会社ゆう建築設計事務所 入社
株式会社ゆう建築設計事務所
1976年生まれ
2001年 大阪産業大学大学院 博士前期課程 工学研究科 修了
2004年 株式会社ゆう建築設計事務所 入社
ライフケアデザイン株式会社
1973年生まれ
大学卒業後、ゼネコンに入社。住宅や商業施設等の施工管理・生産設計業務に携わる。その後、不動産ディベロッパー、医療・介護事業会社へ転職し、20施設程度の介護施設に関する不動産開発と建築企画業務に携わる。
※上記インタビューは2015年11月18日に行われたものです。
※記載された提供サービス内容などは、予定のものであり、変更される場合があります。
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