2025/02/07
シクラメンは旅をする
こんにちは。ホーム長の三輪です。
寒い日は続きますが、少しずつ春の足音が聞こえる今日この頃です。
冬の間も、寒い季節ならではの楽しみを感じていただけるよう、様々な企画を行ってまいりました。
加えて、鈍色の空の季節を明るい気持ちで乗り切れたことには、シクラメンの存在もあったかも知れません。
冬 —。
館内の至る所に、シクラメンがありました。
どんな場所にあっても、目を惹くその鮮やかさに、冬の主役の風格を感じました。
ただ、こんな過酷な時期に咲く花であっても、温かく陽の射す場所を好む気持ちはあるようです。
「こんな寒い風の日は、もう嫌だ」
とでもいうように首をたれているときもあり、その“小さな自己主張”に可愛らしさを感じることもありました。
そうすると、用務スタッフやケアスタッフや私が、その鉢が好みそうな場所に置き換える、ということをしていました。
自然と私たちの会話も、「どうやら、この場所が好きみたいだね」といった植物の居心地について話すことが多くなっていました。
昨日、あそこにあったシクラメンが、今日はここに。
今日、ここにあったシクラメンが明日はあちらに、という風に、あたかもシクラメンが館内を旅するかのように、いろいろな場所でその存在感を放ち、ご入居者を、私たちを幸せな気持ちにしてくれました。
誰しも、人生を充実したものにしたいと思っており、それは当ホームのご入居者の皆さまにとっても同じこと。
しかし、半生を多彩なご経験によって好奇心を満たしてこられた方々であっても、様々な事情から、もう遠出を、旅を、新しい世界との出会いをあきらめなければならないのか。毎日歩いた散歩道さえもう歩けない、慣れ親しんだ我が家さえも帰れないのか…。
そんな悲しみを持たれることがあります。
そのような方に対し、私はこうお伝えしています。
「いいえ。どうか、あきらめないでください。私たちは、皆さまのお出掛けを、旅を、この先も変わらずにお愉しみいただけるよう、ご支援いたします」と。
そのひとつの証左、というと大袈裟ですが、この冬、ご希望のご入居者を高尾山登山の旅へとご案内いたしました。
ソナーレ駒沢公園において、長く温められ、なかなか叶うことのなかった高尾山行きの旅。それをこの冬実行することができたのでした。
ご入居者5名、スタッフ6名が、車椅子と歩きの2班に分かれて登山を行いました。
この人数で、よくも実施したものです。一部、在来線に乗車して道中の旅気分を味わうという趣向もスタッフが考えたこと。
スタッフたちは、この日に備えて入念な下見を行いました。
歩くのに安全なルート、車椅子では難所となる段差の有無、喜んでいただけるスポットの確認。
その情熱たるや。
スタッフは、間違いなく責任感の強い若者たちです。心の底から献身的に、一緒に楽しみたいと望んでいることがうかがえました。
ご覧ください、この抜けるような青い空を。
空の広さ、その清々しさを全身で、五感で受け止めるこの幸せ。
私は思います。
根のあるシクラメンでさえ旅をするのです。
ヒトの私たちが旅をあきらめてはいけないと。
この春、私たちは、ご入居者にもっともっと広い世界を愉しんでいただければと思っています。
もしかすると、もう目にすることができないかも知れない、とあきらめていらした世界にお誘いしたいと思っています。
人生の最期まで旅ができる可能性を、私は大切にしたいと考えています。
この企画の実施にあたって、ご協力、ご理解くださいましたすべてのご家族、実施に知恵を尽くしてくれた多職種のメンバーに、心からの感謝を贈ります。