2023/06/19
紫陽花と本と、よりそいと
こんにちは。ライフマネージャー兼副ホーム長の三輪です。
当ホームでは、ご入居者の健やかな毎日のために『歩く』ことを大切にしております。
それに合わせて、館内の至るところにひと休みできるスペースをご用意しています。
仲良しの方々が、一緒にお部屋へ戻られる途中で腰掛けたり、アクティビティに参加されるときに待ち合わせたり、普段とは違う景色を眺めながらお茶を召し上がったり。
いつもの方々がいつもの場所で過ごされているご様子に、心がほっこりと癒されます。
また、いつもと違う方々が一緒に過ごされているご様子には、好奇心がそそられます。
あるとき、3階のティースペースで(ここも人気のスポットです)、数名のご入居者が、興味深げに何かを覗き込んでいらっしゃいました。
私もつられて覗き込んでみると、紫色の瑞々しい紫陽花の大輪が、涼し気なガラスの花器に収められていました。そしてその横には、季節の風物詩について書かれた一冊の本が置いてありました。
皆様は紫陽花を眺めながら、その本の6月の記述を話題にして、
「このお花、新鮮ねぇ…。どこのお花なのかしら」
「この本もなかなかセンスがいいんじゃないかしら」
と、楽しそうに会話を弾ませていらっしゃいました。
確認してみると、それはあるクリーンスタッフによって設えられたものでした。
「紫陽花は、その日の朝に、屋上で摘んできたものです。本については、ご入居者は季節のお話がすきなので、この本があればきっと話題に事欠かないのではないかと思いまして…」。
と、はにかみながら教えてくれました。
だれに頼まれたわけでもなく、純粋にご入居者を思いやる気持ちをかたちにしたこのスタッフの行動に、私は爽やかな感動をおぼえました。
またある時、私は逝去されたご入居者のご家族から、こんなお言葉をかけられました。
「ケアスタッフさんやナースさん、本当にお世話になりました。特に、クリーンスタッフさんには感謝の気持ちでいっぱいです…」
詳しくうかがうと、そのご入居者は、お元気だった頃から、大切なものや思い出の品々を、常にベッド上の手の届く範囲内、それもそれぞれ決まった位置に置いておくことで、安心感を得ていたそうです。思い出の数が多い分、その品数も相当でした。
ご逝去のときが近づくにつれて、床を離れることが段々と難しくなっていきました。
ご家族は、足しげくご本人を見舞ってくださっていましたが、
「母は、いつも清潔なシーツで心地よさそうでした。それに、身の回りに大切な品々が、いつもの場所にあって。シーツを変えることも、定位置に品を揃えておくことも、きっと手間のかかることでしたでしょうに、(クリーンスタッフは)厭わずやってくださった。おかげで、母はとても安心して過ごすことができました」
と、感謝の気持ちをお伝えくださいました。
クリーンスタッフのリーダーにこのことを伝えると、
「ご本人は、身の回りの決まった位置に馴染みの品々があることを、とても大切になさっていました。ですから、私たちも出来るだけそのお気持ちを尊重にしようと努めてきました。最期の時にその気持ちが伝わっていたら、本当にうれしいことです」
と、応えました。
長い人生を歩んでこられたご入居者の皆様には、それぞれに、こだわってこられた人生観や生活スタイルがあります。まさに十人十色ですから、求めるものや感じ方も様々。
そのような方々に向き合って働く私たちは、正解を模索する中で、どのようにしたらその方の想いにお応えできるのか、自身の仕事はその方のためになっているのか、自問自答を繰り返しています。
そうした中で、ご入居者のお気持ちをおもんぱかり、深くよりそい、感動を導き出したクリーンスタッフたちに、手前味噌ながら、私は心から敬意を表するとともに、一緒に働けることを誇りに思います。