皆さま、こんにちは。
唐突ですが、皆さまは"ユマニチュード"という言葉を耳にされたことはありますか。
フランス語で「人間らしさ」を意味する"ユマニチュード(Humanitude)"は、ケアを受ける人の「人間としての尊厳」を大切にし、ケアを行う人の優しい気持ちを伝えることを重要視した認知症ケアのひとつです。
ユマニチュードでは、「見る」「話す」「触れる」「立つ」を4つの柱に据え、ケアを行なう際の原則としていますが、なかでも「立つ」ことを重視しています。なぜなら立つことは、「人間らしさ=尊厳」の表れだからです。
人間は直立する動物で、立つことによって身体のさまざまな生理機能が十分に働くようにできています。従って、車椅子の方が椅子や便座に移る際や、洗面や歯磨きを行うときに、できるだけ「立つ」時間を増やすようにケアを行うことで、立つ能力は保たれ、寝たきりになることを防げると、ユマニチュードでは提唱しています。
さて、前置きが長くなりましたが、今回はこの「立つ」ことについての当ホームでの取り組みをご紹介いたします。
ある日、車椅子のご入居者が、作業療法士(OT)の指導のもと、歩行訓練を開始されました。最初はまず、立つことから始めます。
「ではAさん、よろしくお願いしますね」OTの声掛けにゆっくりうなずかれるAさん。
足を肩幅に開き、両手で平行棒をしっかりとつかみます。
「いいですよ。ではお辞儀をするようにゆっくりと頭を下げて、腰を浮かせていきましょう」
横で手を添えていてくれているOTの声掛けに従いながら、ご自身のペースで立ち上がっていくAさん。足に力を入れて、しっかりと立位が取れました。
「いいですよ!では支えていますから、右足から一歩前に出してみましょう。大丈夫!」
真剣な表情のAさん。固唾を飲んで見守るOT。
一瞬の沈黙ののち、第一歩が踏み出されました。一歩前進!
そしてAさんは、足元からゆっくり視線を上げて、満面の笑みと共にこのガッツポーズです。
どうだ!といわんばかりに。
「Aさんすごいです!やりましたね」とのOTの声掛けに笑顔でうなずくAさん。
Aさんの生活背景も含めた包括的な理解に努め、お気持ちに寄り添う声掛けや身体への触れ方でご本人の「立ちたい」「歩きたい」という内発的な意欲を引き出し、実現に導いたOT。
Aさんが示したガッツポーズは、自己の尊厳を実感できた喜びの表れであり、私たちに究極の喜びをももたらしてくださいました。
ユマニチュードで最も大切なのは「相手を深く理解する」ことだと思います。
この方は「どのような人生を送られ、何をすることがお好きだったんだろう...」等と思いを巡らせ、少しずつ相手のことを知りながら、一人の人として関係性を築いていくこと。それがその方らしさを大切にできるケアにつながっていくのではないでしょうか。そして、この技法は、私たちソナーレが取り組む"Life Focus"の実現にも通ずるものがあると思っています。
ソナーレでは、高齢者の方々との関わりから得られた"気づき"と、そこから実際のケアにつながる事例をたくさん掲載した「目で見てわかる認知症ケア」という本を監修しています。ぜひ、こちらもご覧ください。